〖年賀状〗

あの子のことを思い出した。

 

彼女は遠い遠い雪の降る町に住む女の子だった。

彼女はいつも写真を撮り絵や詩を書き、自分のホームページに載せていた。

仕事は普通の女の子がやりたがらないような外仕事をやっていて、趣味で大きなバイクにも乗っている。

自分と気が合うだろうということは、インターネットと年賀状だけで分かった。年賀状は字がゴツく汚い。でも味がある。絵も個性的だった。

 

彼女がバイク旅行の途中会いに来てくれたことがあった。

お互いイメージ通りだねと笑った。私の背が思ったより高いのは少し違ったらしいけど、私は人に身長を伝える時、数センチ小さく言う癖があるので、きっとそのせいだろう。

彼女のワインレッドのバイクは大きくてカッコ良かったけど、私の車はボロくて、彼女は「聞きしに勝る」と喜んでいた。

海沿いのドライブインでご飯を食べた。カキはこの辺りの名物だよと教えてあげたら彼女はカキフライ定食を頼んだ。でも考えたら時期的にまだ少し早く、カキは冷凍か何かだったかも知れない。

会ったら詩の話をたくさんするんだと思っていたのに、お互い照れくさく、そういう話はあまりしなかった。私は彼女の書いている中でいちばん好きな詩を空で言えるほど覚えて出かけたのだったけど。

 

窓から見える海がキラキラ眩しかった。

 

 

それから何年も何年も経った。いろいろあって彼女とは疎遠になり詩のホームページも消えてしまったけど、今も一枚だけ年賀状を持っている。

色んな人とのいろんな思い出を全部捨ててしまっても、それだけ一枚捨てられずにいる。

 

住所は雪の降る町。

彼女はまだそこにいるのだろうか。

彼氏と猫といっしょに。

 

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